GNSSの基本知識 – 中級編

中級編

*本コンテンツは、7月29日より、新らたにPDFでダウンロードが可能となった「GNSSの基本知識」に内容を統合しました。本内容には、公開後の出典元情報に変更などのため、部分的に、過誤が含まれています。7月29日以降は、過誤の訂正や、内容の更新を行っておりませんのでご注意願います。、

GNSSの基本知識 – 中級編のページでは、各測位方式についてより詳しい内容を解説します。とりわけ、高精度精密測位のPPP、PPP-AR、PPP-RTKのそれぞれの方式については、QZSSについて理解を深めるのに非常に重要です。書籍や他のウェブページでは、内容が簡潔にまとめられていない内容です。PPP-RTKについては、標準化、製品化、実用化に、今、まさに進んでいく段階にありますので、随時内容を更新していきます。
 
図 - 7 GNSSの主な測位方式
図 – 1 GNSSの主な測位方式
 
測位方式には、受信機単体で、受信した衛星からの電波のみで測位を行う単独測位と、複数の受信機を利用して、正確な座標がわかっている基準点から相対的に測位を行う相対測位の2種類があります(図 – 1 GNSSの主な測位方式)。また、相対測位の場合、基準点から情報を送るデータには、いくつかのフォーマットがありますが、もっとも汎用的に利用されているのが、RTCMです。それぞれの方式のおおまかな特長については、基礎編をお読みいただきすでにご理解いただいているかと思います。中級編では、それぞれの測位方式のより詳細な内容と、基準局から送信するデータフォーマットのRTCMについても解説します。
 
それでは、まず初めに、測位技術の基本となる、単独測位についてより詳しく解説していきましょう。
 

単独測位

GNSS衛星はスードレンジの計算に必要となる信号とともに、衛星の軌道情報(ephemeris)を含む航法メッセージと呼ばれる情報を搬送波(carrier)に乗せて連続的に送信しています。GPSの場合、搬送波にはそれぞれL1帯 (1575.42MHz)とL2带(1227.6MHz)の2種類の電波が使われています。L1帯では、C/Aコー ドやP (Y)コードと呼ばれる測位用の符号と航法メッセージを放送しています。そして、L2帯ではP (Y)コードのみを放送しています。いずれも各衞星ごとに異なるコードパターンを割り当てることで、衛星が識別できる仕組みとなっています。
 
C/Aコー ドのみを利用した枠組みは、民間用のSPS (Standard Positioning Service)、P (Y)コードも利用した枠組みは、軍用の PPS (Precise Positioning Service) とも呼ばれています。受信機内部には各衛星のコードバターンが組み込まれており、この受信機内で生成されるコードパターン(レプリカ)と受信したC/Aコ一ドとが同期するようタイミングを調整し、その遅れをもとに衛星から受信機までの信号の伝播時間、つまり、衛星から受信機までの電波の到達時間を求めています。そして伝播時間に光速をかけて計算した距離を、「擬似距離(スードレンジ)」と呼んでいます。衛星に搭載された時刻の正確な原子時計と、受信機に内蔵された精度の低い時計の間に、誤差が含まれていのが、「疑似距離」と呼ばれている所以です。
 
ここで、正確な位置を単独測位により特定しようとすると、時間に誤差があることを考慮して、その位置の座標(x、y、z)に加えて、時間軸(t)の合計4つの未知数を求める方程式を解く必要がでてきます。つまり、測位解の計算には、最低でも4衛星の電波を受信する必要がある訳です(図 – 2  単独測位)。しかし、実際には、時間軸の誤差を解消したとしても、他にも誤差要因がいくつも存在しています(表 – 1 誤差要因)。

図 - 8 単独測位
図 – 2 単独測位
 

衛星の軌道誤差 実際の衛星位置と軌道情報から計算される位置との差
衛星の時計誤差 おもにSAによる意図的なC/Aコードのタイミングのゆらぎ
電離層遅延補正誤差 航法メッセージ内の補正パラメータの誤差
対流圏遅延補正誤差 計算に使う対流圏モデルの誤差
マルチパス 観測点環境に依存
受信機ノイズ 受信機内回路の性能による

 
表 – 1 誤差要因
 
表 – 1 の誤差要因の中で、 ③、④の電離層遅延と対流圏遅延については、コードによる単独測位では解消が不可能です。そこで、これらの誤差要因を解消するために、さまざまな方式の相対測位が開発されてきました。そして、受信機の間で、誤差要因の補正に必要となる情報の伝達方式、つまり、データフォーマットで、現在、もっとも幅広く活用されているのがRCTMです。RCTMは、アメリカ合衆国沿岸警備隊が運用を開始した海上向けのビーコンを利用したDGPS向けに制定されたもので、Radio Technical Commission for Maritime Services(海上無線技術委員会)というフォーマットを制定した組織の頭文字をとった名前です。
 

DGPS


さて、DGPSには、いくつかの利用方法があります。まず、船舶向けには、日本の沿岸に海上保安庁により設置された合計27局の中波ビーコン局を利用する方法が一般的です。各局より約300KHz前後の中波に乗せてRTCMフォーマットでDGPS用の補正情報が放送されているので、DGPSビーコン受信機を購入し、DGPSに対応したGNSS受信機に接続することで、ビーコン局から半径200kmの範囲で、DGPSによる測位が可能です。
 
RTCMフォーマットには、さまざまなバージョンがあり、すべて上位互換性を備えています。海上向けのビーコンを利用したDGPSのRTCM フォーマットは、1985年に制定された初版のSC-104です。SC-104にもいくつかのバージョンがあります。
 
海上用のビーコンは、ビーコン局から半径200kmよりも離れた場所では安定した測位精度が得られません。海上ビーコンのように地上局から補正データを送る方式は、GBAS(Ground-Based Augmentation System:地上基地局による狭域補強システム)と呼ばれています。後に、補正情報を静止衛星から放送するSBAS(Satellite-Based Augmentation System:静止衛星による広域補強システム)が登場しました。SBASには航空用のサービスもあり、航空用には、航空無線技術委員会が定めたRTCAというフォーマットが利用されています。航空機のナビゲーション向けでは、インテグリティ機能が搭載されています。
 
その後、測量やさまざまな移動体のナビゲーションに利用されるようになったRTKでは、後に制定された上位バージョンのRCTMが利用されています。RTKの場合、特定小電力の無線機などで基地局と移動局を結び、基地局からRCTMフォーマットで補正データを送って利用するのが日本では一般的ですが、海外では公衆回線のWifi通信や携帯のデータ通信を利用している国もあります。それでは、RCTMフォーマットについて説明しましょう。
 

RCTMフォーマット


DGPSとRTKでは、ともにRCTMフォーマットを利用していても、それぞれの測位に必要な補正データは異なっています。DGPSでは、衛星と受信機間の擬似距離(ス一ドレンジ)で測位計算を行うため、基地局で観測された各衛星間に対しての計算された擬似距離補正データが必要となってきます。一方、RTKでは搬送波(キャリア)を用いた搬送波測位なので、アンビギュイティの決定時に必要なデータとして、基地局で観測される各衛星の搬送波位相データ、擬似距離データ、基地局座標値が必要となってきます。このため、それぞれの測位方式に対する補正データ情報には、これらのデータが最低限含まれています。
 

メッセ-ジタイプ タイトル
1 ディファレンシャルGPS補正情報
3 基準局座標値(cm精度)
9 ディファレンシャルGPS補正情報 (パーシャル)
18 RTK搬送波デ一タ(GLONASSも含む)
19 RTK擬似距離デ一タ(GLONASSも含む)
22 基準局座標値(mm精度)
31 ディファレンシャルGLONASS補正情報
59 受信機メーカー独自フォーマット

 
表 – 1 RTCMで規定されている、主なメッセージタイプ
 
DGPSで必要となるRTCMのタイプは、擬似距離補正としてタイプ1、もしくはタイプ9です。夕イプ1は基地局で観測されたすべての衛星の擬似距離補正値を1パケットとして送信します。 これに対し、タイプ9では3衛星ごとにパケット化されています。タイプ9では、補正データ受信中に1パケット分失われた場合でも、他のパケットから補正データを受けることで、DGPS測位が可能となります。夕イプ9によるDGPSは海上保安庁の中波ビーコンに採用されています。
 
RTKで必要となるRTCMのタイプは、搬送波位相観測データのタイプ18、擬似距離観測デ一夕の19、基地局座標値の3、22です。基地局座標にはタイプ3とタイプ22の2つがありますが、夕イプ3はcm精度の座標値で、タイプ22はmm精度の座標値です。 RTKで観測する際は、通常、常に値が変化するタイプ18、1秒ごとに値が変化するタイプ19、値に変化のないタイプ3、30~60秒毎に出力するタイプ22を使用することが可能です。
 
RTCMは30bitを1wordとしたフレ一ムで構成されています。各タイプとも、ヘッダとして2 word (60bit)が先頭についています。このヘッダにはメッセ一ジタイプ、基地局のID、時刻情報のZ- Countやパリテイ等が含まれています。(図 – 3 RTCMのヘッダ部分とデータ部分)また、RTCMでは、各タイプの送信間隔を何秒ごとに送信するか任意に設定が可能です。
 
図 – 3 RTCMのヘッダ部分とデータ部分
図 – 3 RTCMのヘッダ部分とデータ部分
 
それでは、干渉測位の詳しい説明の前に、電離層と対流圏の電波遅延について、少し詳しい解説を行っておきます。
 

電離層と対流圏の電波遅延

誤差要因の中で、比較的影響が大きいのが、電離層と対流圏で発生する電波遅延です。衛星からの電波は、電子密度のばらつきが大きいこれら2つの層を通過する際、光の屈折の原理により伝搬速度が遅くなります。電離層がもっとも遅延量が大きく、対流圏はさほどの影響を及ぼしません。地上観測点から見て、衛星の仰角が低いとそれだけ、電離層、対流圏ともに、電波が通過する距離が長くなります。したがって、電波遅延量は、 (1)低い仰角の衛星からの電波ほど、遅延効果が大きくなります。また、対流圏の性質には、地域、季節などの要因により、差異があります。(2) 対流圏遅延には、乾燥大気に起因する静水圧遅延量と、湿潤大気に起因する湿潤遅延量の2種類が存在しているのです。対流圏遅延量は全体で2m以上にも達しますが、内訳をみると静水圧遅延量がその約90%を占めています。
 
それでは、どのように、電離層や対流圏と電波遅延量は推定されているのでしょうか?通常、電離層や対流圏による遅延効果は、次のようにして推定、除去する対策が取られています。
 

  • 電離層遅延効果については、その遅延時間が周波数に依存して変化することに着目し、L1波、L2波の2周波を計測して、搬送波位相の線形結合を計算することで、推定し除去することが可能です。
  • 対流圏遅延量のうち、静水圧遅延量は気圧に依存して変化する量であることがわかっています。そこで、地上観測点の気圧を計測することで厳密な値を求めることができますが、一般には通常大気(1気压、 摂氏15度)を仮定したモデルをつくり、静圧遅延量の値を推定しています。
  • 湿潤遅延量について、各衛星方向の遅延量を天頂方向に投影し、どの程度の遅延効果が想定されるか、仮想モデルを立てて初期値を導き出し、その値を用いて天頂遅延量を統計学的に推定しています。そのため大気遅延量は、地上観測点を頂点とし、観測で設定したカットオフ仰角以上に基づいた円錐形の器内に存在する大気遅延量の平均値を推定していると考えることができます。一般に対流圏では、 大気を一様な層構造と仮定した仮想モデルを用います。しかし、例として大気中の水蒸気はその時々の状況、地形効果などさまざまな要因で、複雑な振る舞いを示すことが知られています。とりわけ日本のような複雑な地形をしているところでは、なおさらモデル化しにくい状況となっています。そのため、厳密には一様な成層構造の大気モデルであらわしきれないことによって、天頂遅延量の推定に誤差が生じることも考えられます。
  • 静止精密測量などで基地局と移動局の2点が近接 したところにあれば、各衛星の視線方向に存在する遅延量を同一のものとみなすことができるため、2重位相差を計算することで、その遅延量をキャンセルすることができます。ただし、一般にはこの方法は用いられません。2観測点が近接したところに存在すると、両観測点で受信する衛星信号、衛星仰角ともにほぼ等しくなるため、測位計算を行う際の、2つの方程式がほぼ同一のものとなるからです。つまり、強い相関関係が生じることで、計算結果は、ー意に求めることが不可能となる訳です。そのために通常、各観測点 から500km以上離れたところに存在する観測点を参照点として、得られたデ一夕を測位計算に加えています。
  • 湿潤大気は、伝搬経路上の水蒸気量に依存して変化する量であり、例として水蒸気ラジオメ一 夕といった気象観測機器をGNSS受信機と同時に利用して、水蒸気量を推定し、湿潤大気遅延量の補正を行うことが可能です。

 
すでに説明した通り、DGPSでは、C/Aコードを使って衛星一受信機間の擬似距離を計算してから、その擬似距離計算値に基地局補正データを用いて補正.測位をします。搬送波の位相を考慮せずに、コードのみで測位を行う「コード測位」です。コード測位には、精度に限界があり、それ故に、DGPSでは、10cm~5mの精度となっています。電離層と対流圏の電波遅延は、推定、除去のために周波数の位相レベルの情報を取り扱う必要があります。基本編でも説明しましたが、相対測位には、大きく分けて2通りの測位方法があり、ひとつがDGPSで、もうひとつが位相レベルの情報を取り扱う干渉測位です。
 

干渉測位

 
干渉測位は、搬送波(キャリア)位相(フェーズ)を、2地点間における電波の行路差を求めることで測位する方式です。DGPSと同様に、干渉測位でも精密に座標が計算された既知点が必要となります。そして、その既知点からの距離を計算することで座標値を算出します。この方法は、衛星測位が行われる前より電波天体を利用したVLBI (Very Long Baseline Interferometry)観測で利用されていました。
 
干渉測位ではそれぞれの受信機において観測される搬送波位相を測定するため、受信機間の位相差は特定できますが、受信機間の波数については特定できません。これをアンビギュイティ(Ambiguity: 波数不確定、または整数値バイアス)と呼んでいます。基礎編でも使いましたが、これを簡単な図にあらわしたのが、図 – 2 です。
 
図 – 2 干渉測位
図 – 2 干渉測位
 
このため干渉測位では3次元座標における測位解の決定、RTKにおいては測位のプロセスとしてフロート解からFIX解への収束過程が存在し、スタティック測位においてはアンビギュイティを解決するために長時間の観測が必要となっています。アンビギュイティがあるため、図のように基線解が多数あり、格子軸の方向は衛星の組み合わせによって異なっています。この格子状にあらわれる基線解のうち、衞星組み合わせのパターンによらず変化しない点が必ずあり、これが真の測位解です。
 

RTK

RTKでは基地局より補正デ一タとして、基地局における座標、搬送波位相情報、擬似距離情報を移動局側に送信します。これらの補正情報はRTCM (Radio Technical Commission for Maritime services) SC104 の 2.2 版で、それぞれ、タイプ3、18、19に当てはまります。補正データの送信には通常、無線免許の必要がなく、取り扱いが容易な特定小電力無線が用いられます。そして、移動局でその補正情報を受けて測位解の計算を行います。(図 – 3 RTK-GPS測位)
図 – 3 RTK-GPS測位
図 – 3 RTK-GPS測位
 
RTKの特徴は、移動局側の受信機で、基地局と移動局の両方で受信したC/Aコ一ドと搬送波デ一タを使用して測位解の決定を行う点にあります。測位解の決定のプロセ スにおいて、アンビギュイティ解決における収束計算中での測位解をフロート解と呼んでいます。そして、整数アンビギュイティ決定後の測位解をFIX解と呼んでいます。図 – 2 干渉測位の右上にある立方体で描かれた多数の基線解のうち、真の測位解がFIX解です。
 
アンビギュイティ解決のための収束計算にはOTF (On The Fly)と呼ばれる技術があります。これにより、移動中におけるサイクルスリップなどによる測位エラー時の再FIXも可能となっています。各受信機メーカーによって若干の違いがありますが、 OTFは、一般的にLl、L2波コード、搬送波データのすベてを使用してアンビギュイティを解決方法です。LI、L2の合成波であるワイドレーンやナロ一レーンも使用されます。 RTKでは衛星数が多いほど、アンビギュイティの解決のための計算収束時間が短くなります。それ故に、GPS + GLONASS受信機を利用することで、整数アンビギュイティ決定の短時間化や、ダム、湖、露天掘り、谷間などの上空視野が確保しにくい場所でもRTKが可能となっています。GPS + GLONASS だけでなく、 GALILEO、 BaiDou、 QZSSを組み合わせることでさらに効果は高まります。
 

スタティック測位

スタティック測位は、測位精度が高いことから、公共測量や学術的な精密観測など、幅広く測量に用いられています。また、可降水量の測定といった気象学面(「GPS気象学」という)にも応用されています。スタティック測位では、すべての測位方式の中で、もっとも高精度な測位が可能です。スタティック測位が他のGPS測位と大きく異なるのは 単独測位、DGPS、RTKがリアルタイムで測位可能であるのに対して、スタティック測位では複数台の受信機を用いて、デ一タを収録し、観測終了後にデータを収集して解析を行う後処理方式である点です。RTKと同様、干渉測位であるスタティック測位でも、搬送波位相を利用し、あらかじめ座標の測定されている既知点から1つ以上の未知点の座標を相対的に計算します。
 
干渉測位ではGPSから送信される搬送波の位相を既知点、未知点で同時観測し、この2点間ベクトル (これを「基線ベクトル」という)を計算します。C/Aコードを利用して衛星一受信機間の擬似距離を計算して測位する単独測位やDGPSと異なり、スタティック測位や、キネマティック測位、RTKを含めたすべての干渉測位では、それぞれの点における搬送波位相を測定し、既知点、未知点で共通に観測される衛星の位相差を計算します。ここでは衛星 – 観測点間の搬送波数が分からないため、解は整数値バイアスとなって複数表れます。整数値バイアスについては、3組の衛星を複数組み合わせることで、 真の解を計算し未知点座標を決定します。
 
スタティック測位では、整数値バイアスの決定において、衛星の移動を利用します。衛星移動による整数値バイアスの相殺を三重位相差と呼んでいます。整数値バイアスは時間とともに移動しますが、真の解のみ移動がないため、長時間観測することで未知点座標の決定を行います。具体的には、観測場所、期間、取得するデータ のサンプリング間隔などの観測計画を立てて、2台以上の複数台の受信機を使って観測を開始します。この観測計画をセッションと呼んでいます。また、データサンプリングは エポックと呼ばれています。
 
観測時間は、基線間距離や測位精度の許容範囲にもよりますが、衛星移動を利用するため、3時間以上が望ましいと言われています。また、基線距離に関しては、1周波GPS受信機を用いる場合、電離層による影響により10km以内程度が望ましいとされています。2周波受信機を用いる場合、収録されたデータはL1帯、L2帯を独立で解析しますが、解析ソフトウェアよっては2周波線形結合により電離層遅延を補正できるので、1周波のものよりも長基線 での解析が可能です。学術ソフトウェアでは数千km間の基線距離でも解析可能となっています。
 
解析結果では、既知点、各未知点座標値の他、セッ ション設定条件や、FIX率、標準偏差値などが出力 されます。収録データフォーマットには、各受信機メーカー独自のフォーマットと、受信機機種に依存しない共通 フォーマットである RINEX(Receiver INdependent Exchange)ファイルがあります。現在の測量用受信機や解析ソフトウェアのほとんどがRINEXファイル対応となっています。
 
スタティック測位を利用した解析としては、国土地理院が地殻変動検出のため行っている全国GPS連続観測システム GEONET(GPS Earth Observation Network)があります。これは日本全国で1200点以上設置された電子基準点により、24時間連続観測が行われています。この解析結果は国土地理院のホームページに公開されています。また、これらGPS電子基準点におけるRINEXファイルも公開されています。絶対的な位置を求める測量にこれらを用いることはできませんが、科学的な意味合いにおいて相対的な位置を知る目的であれば、申請が必要となりますが、これらのデ一夕は利用可能となっています。世界的には世界各地に設置されたIGS観測点により、プレート運動検出や、ITRF系座標の決定にも利用されています。

高精度単独測位(PPP)

高精度単独測位とは、全地球レベルの現在と一定時間経過後の未来の時点の衛星配置を使用した補正情報を提供するアプローチのことです。RTKなどの高精度測位との最大の相違点は、近傍に基準局の設置の必要がないことです。また、GNSSの軌道と、クロック情報は、全世界で共通に利用できるので、PPPは全世界で利用が可能です。後処理解析により、インターネット配信された補正データを利用してPPP測位を行うことも可能です。

この方式を実現するためには、全世界に観測局(GNSS Reference Station)を配備して、過去と現在の衛星配置を監視し、現在と、一定時間経過後の未来の時点の衛星配置情報、つまりは「精密軌道」を高い精度で計算し、計算結果を静止衛星にアップリンクすることで、静止衛星から受信機に配信するインフラが必要です。精密軌道と、衛星のクロック情報を静止衛星から提供することで、PPPアルゴリズムが搭載され、2周波の搬送波の測位が可能なGNSS受信機は、1~10cmオーダー(高さ方向は20cm)の精度を実現可能です。弊社が提供しているナブコム社のスターファイヤーなら、5cmの精度で測位できます。

スターファイヤー
 

弊社には、NASA (アメリカ航空宇宙局)のJPL(ジェット推進研究所)との契約で設置、運営している、日本地域で唯一の観測局が設置されています。NASAのジェット推進研究所のウェブサイト(http://www.gdgps.net/system-desc/index.html)に、このシステムについての詳細(英語)が記載されています。このサービスでは、リアルタイムの情報を提供しているので、リアルタイムPPPとも呼ばれています。そして、弊社の観測局を含めて全世界に80か所以上設置された観測局のデータに基づく精密軌道とクロック情報は、現在、弊社が提供しているナブコム社のスターファイヤーや、セプテントリオ社がサポートしているTerraStarとVeripos以外にも、数社が、GDPS (グローバル ディフェレンシャル GPS)サービスとして、静止衛星から補正情報として提供されています。いずれも、受信機ごとに一定期間のライセンス契約を結び、有償で情報提供サービスを利用する利用形態となっています。

スターファイヤーの全世界の基地局
 

ナブコムの受信機は、すべてマルチ周波対応で、スターファーイヤー対応のPPPアルゴリズムを搭載しています。そして、誤差要因の中で大きな影響を及ぼす電離圏の電波遅延については、各衛星ごとに本体内で計算しています。また、対流圏の電波遅延も、衛星の観測データにより補完された、複数衛星の時刻と位置のモデルにより本体内で計算しています。

高精度単独測位(PPP-AR)

あらかじめ座標がわかっている場所に基準局を立てる必要があるRTKや、携帯電話の通信ネットワークを利用する必要があるVRSは、どこでも利用ができるという訳ではありません。長距離を移動しながら測位を行うとなると、基線長が長くなり過ぎて、測位精度が低下する場合がでてきます。また、地表の活動が激しい火山付近の地表の移動の観測や、海底プレート移動の調査のための海上ブイによる観測など、あらかじめ座標がわかっている場所がなかったり、携帯電話の通信ネットワークが利用できなかったりする場所で、測位する必要があるケースもあります。その場合、初期化時間が数十秒のRTKに比較して、20~30分と大変長くなってしまいますが、高精度単独測位(PPP)を利用するのが最善の方法でした。高精度単独測位(PPP)の場合、衛星からの信号が途切れると、再度、初期化をするのに最初の初期化時間と同じ20~30分かかってしまいます。そこでPPPのアルゴリズムをベースに、アンビギュイティ解決を行うことで、初期化時間を短縮し、再初期化を瞬時に行えるPPP-ARという技術が注目されていました。セプテントリオ社の受信機が対応している補正情報サービス、テラスターの提供元であるヴェリポス社では、2015年3月よりテラスターCで、PPP-AR対応を開始しています。

RTKやスタティック測位では、整数値バイアスの決定、つまりは、アンビギュイティ解決を行います。RTKでは受信機間二重位相差、スタティック測位では受信機間と衛星間の三重位相差によって、これらの計算を行います。ところが、PPPの場合は、1台の受信機のみで測位を行うので、基長線が存在しません(ゼロ差)。つまり、受信機間位相差による整数値バイアスの決定を行いません。PPPでは、受信しているすべての衛星から同一の誤差要因を差し引く(キャンセル)するアルゴリズムを使用しているので、アンビギュイティ解決の必要がない代わりに、受信しているすべての衛星から同一の誤差要因を差し引くための処理時間が、長くなってしまっています。これとは対照的に、PPP-ARの場合は、各衛星のハードウエア毎のコードと位相のそれぞれのバイアス値を、補正情報として受信機に送信することで、受信機側でアンビギュイティ解決を行います。補正情報は、インターネットや、無線通信、静止衛星などさまざまな方法で、受信機に提供することができます。これにより、初期化時間の短縮と、再初期化の際の初期化の大幅な短縮を実現しています。詳しい内容は、ホワイトペーパー、「TERRASTAR-C: A GLOBAL GNSS SERVICE FOR CM-LEVEL PRECISE POINT POSITIONING WITH AMBIGUITY RESOLUTION」(英語)をご覧ください。

高精度単独測位(PPP-RTK)

高精度単独測位(PPP-AR)は、RTKに比較すると、やはり初期化時間が長い点が大きなデメリットになっています。インターネット接続や他の通信手段と無線が利用可能な環境下で、近隣にRTCMデータの利用を公開された基準局がある場合や、VRSサービスが利用できれば、すでに一般的に普及しているRTKが有利です。しかし、RTKの補正情報サービスは地域によって、可用性が異なりますし、静止衛星から補正情報を受信せざるえない環境下では利用することができません。高精度単独測位(PPP-RTK)は、RTK並みの初期化時間で、スターファイヤのPPPや、ヴェリポス/テラスターのPPP-ARのように、静止衛星から補正情報を受信せざるえない環境下で利用できる測位方式です。PPP-RTKも、PPP同様に、受信機が衛星の精密起動と衛星のクロック情報を受け取ります。さらに、PPP-RTKでは、これらに加えて、衛星の位相バイアス情報も受信機が受け取り、アンビギュイティ解決を行うことで初期化時間を短縮します。RTKネットワークでは、基準局の観測結果と共に、距離に依存した誤差に関するデータや、VRSのデータが、RTCMフォーマットで移動局に送信されますが、これをOSR(Observation Space Representation)と呼びます。これとは対照的に、実際の状態空間データ(state-space data)、つまりは、完全なGNSSの状態である、SSR(State-Space Representation)を使用して、RTKネットワークを基に、正確絶対測位を行う方式がPPP-RTKです。PPP-RTKなら、数秒の初期化時間で、後処理およびリアルタイムでセンチオーダーの測位が可能です。現在、製品化、実用化に向けて、PPP-RTKに対応したRCTMの新しいバージョンの制定による標準化が検討されています。

 
本記事の一部は、2001年に月刊誌「橋梁&都市PROJECT」に掲載した以下の記事を再構成した内容です。著作権は測位衛星技術株式会社が有しております。あらゆる媒体への無断転載を固くお断りいたします。
 
「衛星測位システムの現状」河口 星也、 DX アンテナ株式会社
「GPSの測位方式(1)」河口 星也、DX アンテナ株式会社
「GPSの測位方式(2)」斉藤 浩冶、DX アンテナ株式会社
「GPSの測位方式(3)」斉藤 浩冶、DX アンテナ株式会社
「補正データ情報」齊藤浩治、DX アンテナ株式会社
「GPS測位へ及ぼす電離層、対流圏による伝播遅延効果」千田 克志、DX アンテナ株式会社
「仮想基準点方式を用いたRTK」河口 星也、アンテナ株式会社
「仮想基準局方式を用いたRTK(2)」河口 星也、 DX アンテナ株式会社
「広域ディファレンシャルシステム」斉藤 浩冶、DX アンテナ株式会社
「精度の決め手“マルチパス”」 小神野 和貴、 DX アンテナ株式会社
「SA解除の状況について」斉藤 浩冶、DX アンテナ株式会社
「GPS+GLONASSハイブリッド受信機(1)」茶珎 俊一, DX アンテナ株式会社
「GPS+GLONASSハイブリッド受信機(2)」、鳥本 秀幸、DX アンテナ株式会社
* DX アンテナ株式会社 GPS事業部は、2003年3月をもって、測位衛星技術株式会社へ業務移転しております。

上記に加えて、「橋梁&都市PROJECT」掲載後の15年間の技術の進展について、解説すべく以下の内容を参考に補足を行っています。
– PPPについての記述は、欧州宇宙機関のnaupediaサイト(http://www.navipedia.net/index.php/Precise_Point_Positioning)の内容を要約し、一部、補足を加えたものです。
– PPP-ARについての記述は、テラスター社、ヴェリポス社からの情報に基づいています。
– PPP-RTKについての記述は、「Review and principles of PPP-RTK methods」P. J. G. Teunissen · A. Khodabandeh著や、ドイツのGEO++社が2005年にIONで発表した、「PPP-RTK: Precise Point Positioning UsingState-Space Representation in RTK Networks」の内容に基づいています。

執筆 吉田直子、測位衛星技術株式会社
文責 鳥本秀幸、測位衛星技術株式会社 代表取締役社長

本内容は、2016年5月16日時点で執筆者が入手した情報に基づき構成しておりますが、上記の出典や上記に記載されていない執筆当時の情報の過誤により生じた内容の誤りについて、文責者は、一切の責任を負うものではありません。本記事の著作権は、執筆者に帰属するものとします。

2016年7月29日改定